この記事でわかること
  • 従業員から妊娠の申し出があったときに会社がやるべき個別周知・意向確認の内容。
  • 妊娠中に会社が対応しなければならない5つの母性保護措置。
  • 産後休業の強制期間と就業再開の条件。
  • 育児時間(労基法第67条)の付与ルール。
  • 違反した場合の罰則と不利益取扱いの禁止規定。

従業員から妊娠・出産の報告を受けたとき、人事担当者が最初に動くべきことが法律で決まっています。この義務は、妊娠した女性従業員本人から報告を受けた場合だけでなく、「妻が妊娠しました」と申し出た男性従業員に対しても同様に発生します。

ただし、妊娠中の母性保護措置(妊婦健診の時間確保・軽易業務転換・時間外労働の制限など)は妊娠・出産をする女性労働者本人のみに適用される制度です。男性従業員に適用されるものではありません。

この記事では、申し出を受けた瞬間から産後休業明けまで、どの制度が男女共通で、どの制度が女性のみに適用されるかを整理して解説します。

なお、産後に従業員が育休取得後に時短勤務で復帰した場合に適用される育児時短就業給付金については、育児時短就業給付金が2025年4月に始まりましたで詳しく解説しています。


目次
  1. 妊娠・出産の申し出があったときに会社がやること(男女共通の義務)
    1. 育児休業等の個別周知・意向確認(2022年4月義務化)
    2. 周知すべき4つの情報
    3. 意向確認の方法と記録
  2. 妊娠中に会社が対応すべき母性保護の制度(5つ)【女性労働者のみ】
    1. ①妊婦健診のための時間確保(均等法第12条・第13条)
    2. ②軽易な業務への転換(労基法第65条第3項)
    3. ③時間外労働・休日労働・深夜業の制限(労基法第66条)
    4. ④坑内業務・危険有害業務からの就業制限(労基法第64条の2・64条の3)
    5. ⑤産前休業(労基法第65条第1項)
  3. 産後に会社が対応すべき母性保護の制度(2つ)【出産した女性労働者のみ】
    1. ①産後休業の強制期間と就業再開の条件(労基法第65条第2項)
    2. ②育児時間(労基法第67条)
  4. 違反した場合の罰則と不利益取扱いの禁止
    1. 主な違反と罰則
    2. 不利益取扱いの禁止
  5. よくある質問(FAQ)
    1. Q1:産前休業の開始日を会社が決めてよいですか?
    2. Q2:軽易業務が社内にない場合はどう対応すればよいですか?
    3. Q3:産後6週間経過後、本人が「復帰したい」と言ってきた場合はどうすればよいですか?
    4. Q4:パートタイマーや有期雇用の従業員にも母性保護規定は適用されますか?
    5. Q5:育児時間の取得を拒否することはできますか?
    6. Q6:妊娠を申し出た従業員が育休を取らないと言っている場合、個別周知は省略できますか?
    7. Q7:「妻が妊娠した」と申し出た男性従業員にも母性保護の制度が適用されますか?
  6. まとめ:妊娠〜産後の対応チェックリスト
  7. 参照
  8. 関連キーワード

妊娠・出産の申し出があったときに会社がやること(男女共通の義務)

妊娠・出産の申し出を受けたら、会社はすぐに個別周知と意向確認を行わなければなりません。これは2022年4月から義務化されたルールです。報告を受けた後に「そのうちやろう」と後回しにすることは認められません。

育児休業等の個別周知・意向確認(2022年4月義務化)

この義務は男性・女性どちらの従業員が申し出た場合も同様に発生します。女性が「自分が妊娠しました」と申し出た場合はもちろん、男性が「妻が妊娠しました」「子どもが生まれました」と申し出た場合も、会社は同じ対応をしなければなりません。

本人または配偶者の妊娠・出産の申し出を受けた事業主は、その従業員に対して育児休業等の制度を個別に周知し、休業の取得意向を確認しなければなりません(育児・介護休業法第21条)。

「全体への案内メールを送った」「就業規則に書いてある」では義務を果たしたことにならない点に注意が必要です。申し出た本人に対して個別に行うことが要件です。

周知すべき4つの情報

個別周知で伝えるべき内容は次の4項目です。

周知事項内容の例
①育児休業・出生時育児休業に関する制度取得できる期間・対象者・申出方法
②育児休業・出生時育児休業の申出先担当部署・担当者名・連絡先
③育児休業給付に関すること支給額(休業前賃金の67%・50%)・申請手続き
④社会保険料の取扱い育休中の社会保険料免除の仕組み

4項目すべてを漏れなく伝えることが必要です。書面・メール・面談など方法は問いませんが、伝えた記録を残しておくことをおすすめします。

意向確認の方法と記録

取得意向の確認方法は面談・書面交付・FAX・電子メール等のいずれでも構いません。重要なのは従業員が「取得したい」「取得しない」の意思を示せる機会を設けることです。

⚠ 注意ポイント:意向確認で絶対にやってはいけないこと
  • 「育休は取らないよね?」と取得しないことを前提とした聞き方をしない。
  • 「できれば早めに復帰してほしい」など取得を妨げる発言をしない。
  • 意向確認の結果、取得の意思を示した従業員に不利な扱いをしない。

私が人事業務を支援している現場でも、この個別周知を忘れたまま産休・育休に入ってしまうケースがあります。特に男性従業員からの報告は見落とされがちです。「妻が妊娠した」という報告も個別周知・意向確認の義務が発生することを、管理職にも周知しておく必要があります。報告を受けたらその週のうちに面談を設定する習慣をつけると漏れを防げます。


妊娠中に会社が対応すべき母性保護の制度(5つ)【女性労働者のみ】

以下の5つの母性保護措置は、妊娠・出産をする女性労働者本人にのみ適用されます。男性従業員は対象外です。労働基準法と男女雇用機会均等法に基づく義務であり、違反した場合は罰則の対象になります。

①妊婦健診のための時間確保(均等法第12条・第13条)

妊娠中の女性労働者が妊婦健診(保健指導・健康診査)を受けるために必要な時間を確保することは、事業主の義務です。

妊娠週数に応じた受診回数の目安は次のとおりです。

妊娠週数推奨受診頻度
妊娠23週まで4週間に1回
妊娠24週〜35週2週間に1回
妊娠36週〜出産まで週1回
合計約14回(医師の指示による)

医師または助産師がこれと異なる指示をした場合は、その指示に従って時間を確保しなければなりません。

母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)は、医師等が従業員に交付し、職場へ伝えるべき指導内容を記載したものです。従業員からこのカードを受け取った場合、会社は記載された指導内容(休憩の取りやすい環境整備・負担軽減等)に対応する義務があります。

妊産婦のための保健指導または健康診査を受けるための時間の確保|厚生労働省

②軽易な業務への転換(労基法第65条第3項)

妊娠中の女性労働者が「今の業務が体に負担がかかる」として軽易な業務への転換を請求した場合、会社はその請求に応じなければなりません。

ただし、転換先の軽易業務を新たに創設する義務まではありません。社内に適切な業務がない場合は、状況を従業員に説明しながら可能な範囲で対応することが求められます。また、転換後の業務が変わったことを理由として、賃金を不当に引き下げることは不利益取扱いにあたります。

軽易業務転換の請求があった場合、いつ・どのような業務に転換したかを記録しておくことが後のトラブル防止につながります。

③時間外労働・休日労働・深夜業の制限(労基法第66条)

妊娠中および産後1年以内の女性(妊産婦)が請求した場合、会社は次の3つを行わせることができません。

制限の種類内容
時間外労働の制限法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた労働
休日労働の制限法定休日(週1回)に労働させること
深夜業の制限午後10時〜午前5時の間に労働させること

変形労働時間制や裁量労働制を採用している場合でも、妊産婦が請求した場合は法定労働時間を超えて働かせることはできません。

「請求があった場合」の制限であるため、従業員からの申し出がなければ適用されませんが、妊娠が判明した段階で「申し出ができること」を本人に伝えておくことが望ましい対応です。

📌 補足:育児・介護休業法による時間外労働・所定外労働の制限は男性も対象

本節で解説した労基法第66条による妊産婦の時間外労働・休日労働・深夜業の制限は女性労働者のみが対象です。男性には適用されません。

一方、育児・介護休業法(育介法)には、男女を問わず利用できる「時間外労働の制限」と「所定外労働の制限」があります。

  • 所定外労働の制限(育介法第16条の8):3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合、所定労働時間を超えた労働をさせることができません。男性も請求できます。
  • 時間外労働の制限(育介法第17条):小学校就学前の子を養育する労働者が請求した場合、月24時間・年150時間を超えた時間外労働をさせることができません。男性も請求できます。

妻が妊娠・出産した男性従業員が「育児に関わるため残業を減らしたい」と申し出た場合は、この育介法の規定に基づいて対応できます。個別周知の際に男性従業員にも案内しておくとよいでしょう。

④坑内業務・危険有害業務からの就業制限(労基法第64条の2・64条の3)

妊娠中および産後1年以内の女性を、次の業務に就かせることはできません。

  • 坑内業務(鉱山の坑内での作業等):妊娠中の女性は絶対禁止。産後1年以内の女性も、本人が申し出た場合は禁止。
  • 危険有害業務:重量物の取り扱い・有害ガスが発散する場所での業務等、女性労働基準規則が定める業務。

事務職中心の企業では関係が少ない規定ですが、製造業・建設業・医療機関等では必ず確認が必要です。

⑤産前休業(労基法第65条第1項)

出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、女性労働者が請求した場合、就業させることはできません。

種類休業開始請求の要否
単胎妊娠の産前休業出産予定日の6週間前本人の請求が必要
多胎妊娠の産前休業出産予定日の14週間前本人の請求が必要

産前休業は本人が請求して初めて取得できる権利です。会社が強制的に休業させることはできません。また「出産日」は産前休業に含まれます。産前休業を取得せずに就業し、そのまま出産することも法律上は可能です。


産後に会社が対応すべき母性保護の制度(2つ)【出産した女性労働者のみ】

産後の保護措置も、出産した女性労働者本人にのみ適用されます。産後は就業禁止という強制的な保護措置が設けられており、本人が「働きたい」と言っても原則として就業させることはできません。配偶者が出産した男性従業員には適用されません。

①産後休業の強制期間と就業再開の条件(労基法第65条第2項)

産後休業は「本人が希望しても就業させてはならない」強制的な休業です。産前休業とは性質がまったく異なります。

出産した女性労働者を、産後8週間は就業させることはできません。この規定には例外があります。

産後の経過就業の可否
産後0〜6週間絶対禁止(本人の希望があっても不可)
産後6週間経過後〜8週間本人の請求 かつ 医師が支障ないと認めた業務に限り就業可
産後8週間経過後就業可能(育休取得の場合はその期間中は休業)

「産後6週間が過ぎたから復帰させてよい」は誤りです。医師の許可が必要な点を見落とさないようにしてください。

また、産前産後休業の期間中およびその後30日間は解雇が禁止されています(労基法第19条)。この期間中の解雇は、天災事変等のやむを得ない事由を除き無効です。

人事担当者として重要なのは、産後休業終了予定日を起点に育休の開始日・終了予定日を事前にスケジュール化しておくことです。急な復帰希望が出ることもありますが、医師の確認なしに産後6週間未満で復帰させると法律違反になります。

②育児時間(労基法第67条)

生後1年未満の子を育てる女性労働者が請求した場合、会社は1日2回・各30分以上の育児時間を与えなければなりません。

項目内容
対象生後1年未満の子を育てる女性労働者
回数1日2回(各30分、原則として別々に取得)
時間1回につき30分以上
有給・無給法律上の定めなし(就業規則による)
時間帯従業員が指定できる(通常は授乳・搾乳等のため)

育児時間の有給・無給については法律上の定めがないため、就業規則で定めることになります。多くの会社では無給としていますが、有給として設けることも可能です。

育児時間について「制度があることを知らずに対応していなかった」という会社も少なくありません。産後休業明けの復帰面談で、育児時間の制度と取得方法をあらかじめ案内しておくと、従業員も申し出やすくなります。


違反した場合の罰則と不利益取扱いの禁止

母性保護規定の違反には刑事罰・行政指導・企業名公表の3段階の制裁があります。「知らなかった」は免責事由になりません。

主な違反と罰則

違反内容根拠法罰則・行政的制裁
産後6週間以内に就業させた労基法第65条(罰則:第119条)6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
妊産婦の請求にもかかわらず時間外・休日・深夜業をさせた労基法第66条(罰則:第119条)6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
育児時間の付与を拒否した労基法第67条(罰則:第119条)6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
妊婦健診のための時間を確保しなかった均等法第12条(行政指導:第29条・第30条)助言・指導・勧告→企業名公表(勧告に従わない場合)
個別周知・意向確認を行わなかった育介法第21条(行政指導:第56条の2・第56条の3)助言・指導・勧告→企業名公表(勧告に従わない場合)

不利益取扱いの禁止

妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とする次の行為は禁止されています(均等法第9条・育介法第10条)。

  • 解雇・雇い止め・降格・減給
  • 不利益な配置転換・自宅待機命令
  • 契約期間の短縮・退職の強要

妊娠中の解雇は、妊娠を理由とするものでないことを会社が証明できない限り、無効とみなされます(均等法第9条第4項)。証明は非常に困難なため、妊娠中の解雇は原則として行えないと理解してください。


よくある質問(FAQ)

Q1:産前休業の開始日を会社が決めてよいですか?

いいえ。産前休業は従業員が請求した場合に取得できる権利であり、会社が強制することも、会社が開始日を指定することもできません。ただし、妊娠中の体調悪化等で業務継続が困難な場合は、従業員本人と相談しながら対応することが望ましい対応です。

Q2:軽易業務が社内にない場合はどう対応すればよいですか?

軽易業務転換の義務は、転換先業務を新たに創設することまでは求めていません。社内の既存業務の中で可能な範囲での対応が求められます。どうしても適切な業務がない場合は、その旨を本人に丁寧に説明し、可能な業務調整(負担の軽い業務への一部変更等)を検討してください。

Q3:産後6週間経過後、本人が「復帰したい」と言ってきた場合はどうすればよいですか?

本人の請求と医師が支障ないと認めた業務であることの確認が必要です。「本人が希望しているから」だけでは就業させることができません。医師の意見書または診断書等で就業可能であることを確認してから対応してください。

Q4:パートタイマーや有期雇用の従業員にも母性保護規定は適用されますか?

はい、適用されます。雇用形態を問わず、妊産婦であれば労働基準法・均等法の母性保護規定が全面的に適用されます。また、個別周知・意向確認の義務も雇用形態に関係なく対象になります。

Q5:育児時間の取得を拒否することはできますか?

できません。育児時間は労働基準法第67条に基づく権利であり、生後1年未満の子を育てる女性が請求した場合、会社は必ず与えなければなりません。拒否すると6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象になります。

Q6:妊娠を申し出た従業員が育休を取らないと言っている場合、個別周知は省略できますか?

省略できません。意向確認の結果「取得しない」と従業員が答えたとしても、4項目の周知はすべて行う義務があります。取得しない意向であっても、制度を知った上で判断できる環境を整えることが法律の目的です。

Q7:「妻が妊娠した」と申し出た男性従業員にも母性保護の制度が適用されますか?

いいえ。妊婦健診の時間確保・軽易業務転換・妊産婦の時間外労働制限・産前産後休業・育児時間は、妊娠・出産をする女性労働者本人にのみ適用される制度です。男性従業員には適用されません。ただし、個別周知・意向確認の義務は男性従業員に対しても同様に発生します。また、育児休業(育休)は男女どちらも取得できるため、男性従業員への育休制度の案内は必須です。


まとめ:妊娠〜産後の対応チェックリスト

妊娠の申し出があってから産後休業終了まで、会社がやるべきことは法律で定められています。どれか一つでも対応漏れがあると、従業員への不利益だけでなく、会社への罰則や訴訟リスクにもつながります。

【男女共通】妊娠・出産の申し出を受けたらすぐにやること

女性従業員から「自分が妊娠した」と申し出があった場合も、男性従業員から「妻が妊娠した・子どもが生まれた」と申し出があった場合も、以下をすべて実施してください。

  • [ ] 個別面談を設定する(その週のうちに)
  • [ ] 育児休業・出生時育児休業に関する制度を個別に周知する
  • [ ] 育児休業給付・社会保険料免除についても説明する
  • [ ] 育休取得の意向を確認し、記録に残す

【女性従業員のみ】妊娠中に確認すること

以下は妊娠している女性従業員本人にのみ適用される対応です。

  • [ ] 妊婦健診のための時間確保ができているか
  • [ ] 母健連絡カードの提出があれば指導内容に対応しているか
  • [ ] 軽易業務転換の請求があれば対応しているか
  • [ ] 時間外・休日・深夜業の制限の請求があれば対応しているか
  • [ ] 危険有害業務に従事させていないか

【女性従業員のみ】産前・産後の対応

  • [ ] 産前休業開始日(単胎:6週前、多胎:14週前)を確認している
  • [ ] 産後0〜6週間は絶対に就業させていない
  • [ ] 産後6〜8週間の就業再開は本人請求+医師の許可を確認してから行う
  • [ ] 生後1年未満の子を持つ女性には育児時間(1日2回・各30分)を確保している
  • [ ] 産後休業中・終了後30日間は解雇していない

育児期間(職場復帰後)に適用される子の看護等休暇・時間外労働の制限・深夜業の制限・子が3歳になる前の個別周知義務については、後編で解説します。


参照


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母性保護 産前産後休業 妊婦健診 時間確保