36協定は、残業や休日出勤をさせる前に必ず締結・届出が必要な協定です。様式第9号の記入欄が複雑で、中小企業では記入ミスや更新忘れが多発しています。
この記事では、一般条項(様式第9号)と特別条項(様式第9号の2)の書き方を記入例つきで解説し、中小企業が陥りやすい3つのミスと対策を実務目線でお伝えします。
- 36協定が必要になるケースと締結しない場合のリスク
- 時間外労働の上限(原則・特別条項)の正確な数値
- 様式第9号・様式第9号の2の書き方と記入例
- 中小企業で多い3つのミス(労働者代表・更新忘れ・休日労働カウント)
- 電子申請・郵送・窓口の届出手順
36協定とは|中小企業が締結すべきケースと締結しない場合のリスク
36協定は、時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合に、使用者と労働者の代表が締結し、労働基準監督署に届け出なければならない協定です。正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」で、労働基準法第36条に根拠があることから「サブロク協定」と呼ばれます。
36協定が必要になる2つのケース
| 労働の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 法定時間外労働 | 1日8時間・週40時間を超える残業 |
| 法定休日労働 | 週1日の法定休日(日曜など)に出勤させる |
所定労働時間(就業規則上の勤務時間)を超えた残業ではなく、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合に36協定の締結が必要です。従業員が1人でも残業する可能性がある事業所は、規模にかかわらず全社が対象となります。
36協定なしで残業させた場合の罰則
36協定を締結・届出せずに残業させた場合は、労働基準法違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
労働基準監督署の調査や、退職した従業員からの申告により発覚するケースが多く、遡及調査によって過去3年分の未払残業代が問題になることもあります。私が複数の中小企業の経営者から相談を受けてきた中でも、「以前から残業させていたが36協定を結んでいなかった」という事例は珍しくありません。協定なしの残業は発覚リスクが高く、会社の信頼にもかかわります。
残業時間の上限|原則と特別条項の数字を正確に把握する
36協定を締結しても、残業時間を無制限に設定することはできません。2020年4月から中小企業にも適用された上限規制を正確に理解しておく必要。
原則:月45時間・年360時間
36協定の一般条項で定める上限は、月45時間・年360時間です。これを超えた残業は、特別条項なしには認められません。
特別条項の4つのルール
月45時間を超える残業が必要な場合は「特別条項付き36協定(様式第9号の2)」が必要です。特別条項でも、以下4つの絶対上限を守らなければなりません。
| ルール | 上限 | 備考 |
|---|---|---|
| 年間の時間外労働 | 720時間以内 | 休日労働を含まない |
| 単月の絶対上限 | 100時間未満 | 休日労働を含む |
| 2〜6か月の平均 | 月80時間以内 | 休日労働を含む |
| 月45時間超を認める回数 | 年6回まで | 超えるたびカウント |
- 特別条項を結んでいても、月100時間未満・2〜6か月平均80時間以内は絶対上限です。超えれば協定の有無にかかわらず法令違反となります。
- 「年720時間」の上限には休日労働は含まれませんが、月100時間未満・平均80時間の上限には休日労働が含まれます。この計算の違いが現場での集計ミスにつながりやすいポイントです。
一般条項の書き方【様式第9号】記入例つき
残業が月45時間以内に収まる事業所は、様式第9号(一般条項)のみ提出します。厚生労働省ホームページからダウンロードして記入してください。

事業場情報・業務の種類・労働者数
| 記入欄 | 記入内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 事業場の名称 | 会社名ではなく事業場名(本社・〇〇店など) | 複数拠点は拠点ごとに届出 |
| 事業の種類 | 日本標準産業分類に基づく業種 | 「小売業」「製造業」等 |
| 労働者数 | 協定締結時点の全労働者数 | パート・アルバイトを含む |
| 業務の種類 | 時間外・休日労働させる業務 | 「全業務」は不可。職種・業務ごとに列挙 |
業務の種類に「全業務」と書いてはいけません。「営業業務」「経理業務」「製造ライン作業」のように、実際に残業が発生する業務を個別に列挙してください。
時間外労働の時間数(1日・1か月・1年)
| 区分 | 設定例 | 上限 |
|---|---|---|
| 1日の時間外労働 | 3時間 | 法令上の上限なし(実態に合わせて設定) |
| 1か月の時間外労働 | 45時間 | 45時間以内(原則) |
| 1年の時間外労働 | 360時間 | 360時間以内(原則) |
実態と大きくかけ離れた時間数を設定すると、実質的に長時間労働を助長するものとして行政指導の対象となる場合があります。実態に即した時間数で設定してください。
労働者代表の選び方(中小企業で最も間違えやすい箇所)
36協定は「使用者と労働者の代表」が締結します。労働者代表の選出方法を誤ると、協定自体が無効になるリスクがあります。
- 労働組合がある場合 → 過半数組合が代表者
- 労働組合がない場合 → 労働者の過半数を代表する者を民主的な方法で選出
「民主的な方法」とは挙手・投票・持ち回り等で労働者が主体的に選ぶ方法です。経営者や管理職が一方的に指名することは認められません。また、管理監督者(管理職)自身は労働者代表になれないことも覚えておくべき重要な点。選出後は議事録を必ず残してください。
特別条項の書き方【様式第9号の2】記入例つき
月45時間を超える残業が必要な場合は、様式第9号の2(特別条項付き)で届け出ます。一般条項に加えて、以下の欄を追加で記入します。

臨時的事由の書き方:良い例・悪い例
特別条項で最も重要な記入欄が「臨時的に限度時間を超えて労働させることができる場合」です。
| 記入例 | 判定 | |
|---|---|---|
| ❌ 悪い例 | 「業務上必要になった場合」 | 不可:抽象的で恒常的残業を認める内容 |
| ❌ 悪い例 | 「繁忙のため」「顧客からの急な依頼があった場合」 | 不可:臨時性が不明確 |
| ✅ 良い例 | 「月末・四半期末の決算処理が集中した場合」 | 可:特定の時期・業務に限定されている |
| ✅ 良い例 | 「機械設備の突発的なトラブル対応が必要な場合」 | 可:臨時・一時的であることが明確 |
- 「必要が生じた場合」「業務の都合上」のような抽象的な理由は、労働基準監督署から記入しなおしを求められます。
- 実際に残業が発生するシーンを想定し、業務名・発生時期・理由を具体的に記載してください。
- 事由が複数ある場合は、複数行に分けて記入できます。
限度時間超過の回数と時間数の記入方法
「限度時間を超えて労働させることができる回数」は、年6回以内で設定します。
| 記入欄 | 設定例 | 絶対上限 |
|---|---|---|
| 1か月(時間外+休日) | 80時間 | 100時間未満 |
| 1年(時間外のみ) | 600時間 | 720時間以内 |
健康福祉確保措置の記入方法
様式第9号の2の裏面には、限度時間を超えて働く従業員への健康確保措置を記入する欄があります。以下から実施する措置を選択してチェックを入れます。
- 医師による面接指導
- 深夜業の回数制限
- 終業から次の始業まで一定の休息時間の確保(勤務間インターバル)
- 当該労働者の有給休暇についてまとまった日数連続して取得させること
- 健康診断の実施 等
いずれか1つ以上の実施が必要です。選択した措置は、実際に実施してください。記入だけして実施しない場合は法令違反となります。
中小企業が陥りやすい3つのミスと対策
ミス①:労働者代表を会社が指名してしまう
中小企業でよく見られるのが「総務部長を労働者代表にした」「社長が指名した従業員に署名させた」というケースです。使用者が任命した人が署名した36協定は法律上無効となり、協定なしで残業させていたのと同じ状態になります。
選出プロセスを書面で残してください。「〇月〇日の朝礼にて挙手により〇〇を代表者として選出」のような議事録を保管しておくと、万一の調査にも対応できます。
ミス②:有効期間の更新を忘れて失効させる
36協定の有効期間は最長1年。更新を忘れると協定が失効し、翌日から36協定なしで残業させている状態になります。私のまわりでも、担当者の異動をきっかけに更新が途絶えていた事例を複数見てきました。
有効期間の終了日の2〜3か月前にカレンダーやタスク管理ツールにリマインダーを設定し、毎年更新を忘れないようにしてください。
ミス③:休日労働の時間を上限カウントに含め忘れる
月の時間外労働が90時間に収まっていても、休日労働が15時間あれば合計105時間となり絶対上限の100時間未満を超えてしまいます。時間外労働と休日労働を別々に管理するシステムでは、合算値を確認しないまま上限オーバーになるリスクがあります。
勤怠管理システムで「時間外労働+休日労働の合計」をアラート表示できるよう設定してください。手動集計の場合は、月次で必ず合算値を確認する運用ルールを設けてください。
届出の手順|電子申請・郵送・窓口の3方法
36協定届は、事業場の所在地を管轄する労働基準監督署に提出します。
| 方法 | 特徴 | 提出部数 |
|---|---|---|
| e-Gov電子申請 | 24時間受付・受理確認がリアルタイム | 不要(電子データのみ) |
| 郵送 | 窓口に行く必要なし | 原本1部(控えが必要な場合は2部) |
| 窓口持参 | その場で確認・受理 | 原本1部(控えが必要な場合は2部) |
電子申請が最もスムーズ。事前にe-Govアカウントの取得とGビズID(または電子証明書)の準備が必要です。紙の場合は控えへの受付印をもらうことを忘れずに。
提出部数・提出先・保管義務
- 提出先:事業場を管轄する労働基準監督署(支署)
- 保管義務:協定の有効期間中および有効期間終了後3年間は保管が必要
- 労働者への周知:締結した36協定の内容は社内掲示・書面配布・社内イントラネット等で全従業員に周知しなければなりません
よくある質問(FAQ)
Q1. 36協定は毎年提出が必要ですか? はい。有効期間は最長1年のため、毎年更新・届出が必要です。更新しなければ協定が失効し、その日から36協定なしで残業させている状態になります。有効期間は「起算日から1年間」で設定することが推奨されています。
Q2. パート・アルバイトにも36協定は必要ですか? はい。正社員・パート・アルバイト・契約社員を問わず、法定労働時間を超えて残業させる場合は36協定が必要です。また、パート・アルバイトも労働者代表の選出に参加させる必要があります。
Q3. 36協定で定めた時間を超えて残業させたら、どうなりますか? 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。また、時間外労働の割増賃金(月60時間超は50%以上)の未払いが発生していた場合は、遡って支払いを求められます。
Q4. 特別条項なしで月45時間を超えてしまった場合はどうすればいいですか? 速やかに特別条項付き36協定(様式第9号の2)を締結・届出してください。届出後から有効となるため、それ以前の超過分は協定違反の状態です。まず社労士や管轄の労働基準監督署に相談して適切な対応を取ってください。
Q5. 複数の事業所がある場合、36協定はどこで提出すればいいですか? 36協定は事業場単位で締結・届出します。本社・支店・工場など、拠点ごとに管轄の労働基準監督署へ届け出てください。本社がまとめて1件の届出をすることはできません(e-Govによる電子申請では一括送信が一部可能ですが、協定自体は事業場ごとに締結が必要です)。
まとめ:今すぐ確認すべき3つのポイント
36協定の書き方と中小企業が注意すべき点を整理します。
- 様式の選択:残業が月45時間以内なら様式第9号(一般条項)、超える可能性があれば様式第9号の2(特別条項付き)を使用する
- 労働者代表の選出:経営者・管理職が指名するのは無効。挙手・投票・持ち回りで従業員が主体的に選出し、議事録を残す
- 更新管理:有効期間(最長1年)の2〜3か月前にリマインダーを設定し、失効を防ぐ
本記事の情報は2026年5月時点のものです。法改正により内容が変わる場合があります。最新情報は厚生労働省の公式サイトをご確認ください。
