2026年10月、パートの社会保険加入条件が大きく変わります。「106万円の壁」として知られる月額賃金要件が撤廃され、週20時間以上働くパート・アルバイトは原則として社会保険に加入することになります。中小企業の人事・労務担当者にとって、対象者の洗い出しと手続き対応が急務です。

この記事では、現行の加入条件の基本から2026年10月改正の5つの変更点、そして企業が今すぐとるべきアクションまで、実務に直結する形で解説します。


この記事でわかること
  • パート・アルバイトの現行の社会保険加入条件(2種類のルート)
  • 2026年10月に変わる5つのポイント(106万円の壁撤廃を含む)
  • 「週19.5時間問題」と2026年パート離職リスクの実態
  • 社会保険加入のメリット・デメリット(従業員・企業別)
  • 資格取得届の手続き手順と必要書類一覧
  • 企業が今すぐとるべき対応アクション5つ

パート・アルバイトの現行の社会保険加入条件

パート・アルバイトが社会保険(健康保険・厚生年金)に加入するルートは、2つあります。どちらか一方に当てはまれば加入対象です。

ルート①:フルタイムの4分の3以上

所定労働時間と所定労働日数が、同じ事業所のフルタイム労働者の4分の3以上の場合は、雇用形態を問わず加入対象になります。

週5日・8時間勤務のフルタイム社員がいる場合、週30時間以上勤務すれば対象です。中小企業でパートを活用している場合、このルートで加入が必要な方が意外と多くいます。

ルート②:短時間労働者の5要件(51人以上企業)

2024年10月から、従業員51人以上の企業のパート・アルバイトに適用されています。以下の5要件をすべて満たす場合に加入対象となります。

要件内容
① 所定労働時間週20時間以上
② 所定内賃金月額8.8万円以上(年収換算106万円)
③ 雇用見込み2か月を超える雇用が見込まれる
④ 学生除外学生でないこと(夜間・定時制は加入対象)
⑤ 企業規模従業員数が51人以上の企業に勤務

現時点(2026年10月前)では、51人未満の企業のパートは②のルートの対象外です。ただし、ルート①を満たせば規模に関係なく加入が必要になります。


2026年10月の大改正:5つの変更点まとめ

2025年6月に成立した年金制度改正法により、社会保険の適用範囲が段階的に拡大されます。2026年10月施行の内容を中心に、5つの変更点を整理します。

変更① 月額賃金要件(106万円の壁)の撤廃

最大の変更点は、月額8.8万円(年収106万円相当)の賃金要件の廃止です。

2026年10月以降、週20時間以上働き、2か月を超えて雇用が見込まれる非学生のパートは、賃金額に関わらず社会保険の加入対象になります。時給1,016円を超える最低賃金が全都道府県で適用されている現在、週20時間勤務すれば自動的に月8.8万円を超えるためです。

変更② 企業規模要件の段階的撤廃

現在「51人以上」の企業に限られている短時間労働者への適用が、2027年から2035年にかけて4段階で拡大されます。

施行時期対象企業規模新たに対象となる規模帯
2026年10月〜51人以上賃金要件(月8.8万円)が撤廃
2027年10月〜36人以上36〜50人の企業が新たに対象
2029年10月〜21人以上21〜35人の企業が新たに対象
2032年10月〜11人以上11〜20人の企業が新たに対象
2035年10月〜1人以上全事業所に適用(規模要件完全撤廃)

従業員数20人以下の中小企業にとって猶予期間は約6〜9年ありますが、対象企業数は2029年・2032年の2段階で一気に増えます。 準備が遅れると手続き対応や従業員説明が追いつかなくなるため、規模に関わらず今から対象者の洗い出しを始めておくことが重要です。

変更③ 130万円の壁(扶養認定)の判定方法変更

2026年4月から、扶養認定の判断が「実際の年収」ではなく「労働契約上の賃金」を基準にするルールが明確化されます。

残業代や一時的な収入増があっても、労働契約書に記載された所定賃金が130万円未満であれば、扶養から外れない扱いになります。ただし、継続的に130万円を超えると見込まれる場合は扶養から外れます。

変更④ 大学生等の特例基準が150万円に引き上げ

2025年10月から、19歳以上23歳未満の大学生等(特定適用事業所に勤務)の扶養認定基準が、130万円から150万円に引き上げられます。学生アルバイトを多く雇用している飲食・小売業では影響が大きいポイントです。

変更⑤ 在職老齢年金制度の見直し

65歳以上の在職者が対象の在職老齢年金(高在老)について、年金支給停止の基準額が51万円(2025年度)から65万円(2026年4月)に引き上げられました。法律上の基準額は62万円で、毎年度の賃金変動に応じて改定されます。

基準額が上がったことで、「賃金+年金の合計が65万円以下」であれば年金が全額支給されるようになります。高齢者の就労意欲を高め、人手不足の解消を後押しする目的の改正です。


【企業側の影響】2026年にパート離職リスクが高まる理由

2026年10月の改正は、労働者の行動を大きく変える可能性があります。人事担当者として知っておくべき現場の動きをお伝えします。

「週19.5時間」に働き方を変える労働者が急増する

社会保険への加入を避けたい労働者が、週20時間を下回る週19時間・19.5時間勤務にシフトする動きが加速しています。私が複数の人事担当者に話を聞いたところ、「すでに勤務時間を調整したいと申し出るパートが増えている」という声が複数ありました。

週20時間という加入基準はパート・アルバイト側にも既に広く知られており、2026年10月に向けてシフト変更の申し出が増えることは十分に予測できます。

⚠ 注意ポイント:週20時間未満へのシフト変更申し出への対応
  • 「週19時間に減らしたい」という申し出が増えた場合、業務に支障が出ないか事前に確認してください。
  • シフトを週19時間に変更しても、実態として週20時間以上働いている場合は加入義務が生じます。所定労働時間だけでなく実労働時間も把握してください。
  • 人員不足を補うために複数のパートを短時間で組み合わせるシフト設計に切り替える企業が増えています。早めに検討してください。

51人未満の企業にパートが集中するリスク

51人以上の企業では社会保険加入が義務化されている一方、50人以下の企業はまだ対象外(ルート②の場合)。このため、「51人以上の職場から50人以下の企業に移る」パートが増える可能性があります。

私が複数の経営者に話を聞いたところ、「条件のいいパートを引き抜かれた」という事例は既に出始めています。2027年以降は36人以上の企業にも適用が拡大するため、従業員規模が小さいからといって対岸の火事ではありません。

⚠ 注意ポイント:既存パートの離職を防ぐための先手対策
  • 「社会保険に入りたくないので51人以下の会社に移る」という退職を防ぐには、本人が希望する場合に週20時間未満のシフトへ変更できる選択肢を用意することが有効です。
  • 一方で、社会保険加入のメリット(傷病手当金・出産手当金・将来の年金増)をきちんと説明すると、加入を前向きに受け入れるパートも少なくありません。
  • 2026年10月までに全パートへの個別説明会を実施することを強くお勧めします。

社会保険加入のメリット・デメリット(従業員・企業別)

加入義務があることを前提としつつ、従業員・企業それぞれの観点から整理します。

従業員側のメリット

  • 傷病手当金が受け取れる(最長1年6か月間、標準報酬日額の3分の2)
  • 出産手当金が受け取れる(産前産後98日間)
  • 厚生年金に加入することで、将来受け取れる年金額が増える
  • 配偶者の扶養から独立した保障が得られる

従業員側のデメリット

  • 手取りが減る(社会保険料として給与の約15%が控除される)
  • 配偶者の扶養から外れる場合、世帯全体での手取りが一時的に下がることがある

企業側のメリット

  • 従業員の定着率が向上する(福利厚生として評価される)
  • キャリアアップ助成金など、各種支援制度の活用対象になる

企業側のデメリット

  • 社会保険料の事業主負担が増加する(保険料の約50%を負担)
  • 新規加入者が増えると、事務手続きの負担も増える

資格取得届の手続きフロー

対象者が確定したら、速やかに資格取得届を提出します。提出期限は加入事実発生から5日以内です。

手続きの流れ

ステップ1:対象者を確定する

週20時間・月8.8万円(2026年10月以降は週20時間のみ)の要件を満たす従業員をリストアップします。雇用契約書を確認し、所定労働時間を基準にします。

ステップ2:本人への説明と同意

社会保険の加入内容、保険料の控除額、給与への影響を丁寧に説明します。2026年改正後は扶養認定の判定方法も変わるため、扶養内で働きたい労働者への説明が特に重要です。

ステップ3:必要書類の準備

書類入手先
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届日本年金機構ウェブサイト
マイナンバーまたは基礎年金番号本人から提出
被扶養者(異動)届(扶養家族がいる場合)日本年金機構ウェブサイト
国民年金第3号被保険者関係届(配偶者がいる場合)日本年金機構ウェブサイト

ステップ4:提出

電子申請(e-Gov)または年金事務所への郵送・持参で提出します。電子申請が原則義務化されている大企業(資本金1億円超等)を除き、中小企業は郵送でも対応可能です。

ステップ5:保険証の交付

マイナ保険証への移行が進んでいますが、必要に応じて資格情報のお知らせ等を本人に交付します。


企業が今すぐとるべき対応アクション5つ

施行まで残り約5か月です。以下の5つのアクションを今から準備してください。

アクション1:対象者の全数洗い出し 全パート・アルバイトの所定労働時間・月額賃金を一覧化します。2026年10月以降に対象になる人を事前に把握することが、手続き漏れ防止の第一歩です。

アクション2:扶養内希望者への個別面談 社会保険加入を希望しないパートには、改正後の選択肢を丁寧に説明します。週19.5時間への変更を希望する場合は、シフト設計への影響を踏まえて話し合いましょう。

アクション3:労働条件通知書の見直し 2026年4月以降、扶養認定は「労働契約上の賃金」が基準になります。残業代や一時手当が多い場合、所定内賃金の記載方法を見直す必要があります。

アクション4:給与計算システムの確認 社会保険料の計算・控除に対応した給与計算ソフトを使用しているか確認します。対象者が増えると、手作業での対応は誤りのリスクが高まります。

アクション5:キャリアアップ助成金の活用を検討 短時間労働者を社会保険加入させた企業には、キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)が適用される場合があります。1人当たり最大50万円の助成が受けられるため、社労士や助成金申請の専門家に相談することをお勧めします。


よくある質問(FAQ)

Q1. 51人未満の企業でも、パートが社会保険に加入するケースはありますか? はい、あります。ルート①(フルタイムの4分の3以上)を満たす場合は、企業規模に関わらず加入が必要です。週30時間以上勤務しているパートは、企業規模を問わず今すぐ確認してください。

Q2. 2026年10月以降、週20時間以上のパート全員が社会保険に入らないといけないのですか? 51人以上の企業では、賃金要件(月8.8万円)が廃止されるため、週20時間以上・2か月超勤務・非学生の条件を満たす全員が対象になります。50人以下の企業は2026年10月時点では引き続き対象外ですが、2035年までに段階的に適用が拡大します。

Q3. 社会保険に加入させると人件費はどれくらい増えますか? 月額賃金9万円のパートの場合、事業主負担の社会保険料は月額約1.3〜1.5万円(健康保険・厚生年金合計)が目安です。年間で約15〜18万円の追加負担になります。ただし、キャリアアップ助成金を活用することで一定の補填が可能です。

Q4. 従業員から「社会保険に入りたくない」と言われたらどうすればよいですか? 加入条件を満たす場合、本人の意向に関わらず加入義務があります。ただし、週20時間未満に所定労働時間を変更することで加入を回避することは可能です。業務への影響を考慮しながら、シフト調整の可否を検討してください。

Q5. 130万円の壁は2026年以降どうなりますか? 2026年4月以降も130万円という基準自体は残りますが、判定方法が変わります。残業などによる一時的な収入増は扶養判定に含めず、「労働契約上の所定賃金」が基準になります。ただし、継続的に130万円を超える見込みがある場合は扶養から外れます。


まとめ:2026年10月の改正に向けて今すぐ準備を

2026年10月の社会保険改正で変わる主なポイントを振り返ります。

  • 106万円の壁(月額8.8万円要件)が撤廃→ 週20時間以上の51人以上企業のパート全員が対象に
  • 企業規模要件は2035年に向けて段階的撤廃→ 50人以下の企業も早めの準備が必要
  • 130万円の壁の判定方法が変更→ 労働条件通知書の記載内容が重要になる
  • 大学生特例が150万円に引き上げ→ 飲食・小売業は注意が必要
  • パートの行動変化(週19.5時間化)と離職リスク→ シフト設計と人材確保の見直しが急務

社会保険の適用拡大は、従業員にとっては将来の保障強化につながる一方、企業には人件費増加と事務負担の増大をもたらします。今から対象者の洗い出しと従業員への説明を進め、円滑な移行を準備してください。


本記事の情報は2026年5月時点のものです。法改正により内容が変わる場合があります。最新情報は厚生労働省の公式ページをご確認ください。